全日本選手権が丸善インテックアリーナ大阪で開催されるのは3年目だが、今年の大会運営はこれまでとは全く違うものとなった。
昨年9月の日本卓球協会理事会で、全日本選手権の開催が決定。主管団体である大阪卓球協会は、徹底的な感染予防の対策を講じることになる。今大会の競技委員長である阪井一利・ 大阪卓球協会理事長はこう語る。
「スポーツ庁のコロナ対策のガイドラインに基づき、それに大阪なりのやり方を施しました。換気の時間を作り、選手席も密にならないように設定した。換気の時間は20分としていますが、実際にこの体育館は5分で換気できると専門家の方にもお墨付きをいただいた。
ほかのコートからボールが来たら、副審の人が手袋をはめて取りに行く。その手袋は1回使ったら廃棄するようにしてます。何千枚も手袋を用意している。そういうことは審判長、日本卓球協会、大阪卓球協会で会議をして決めていった。卓球台を消毒するペーパータオルも一方向でしかふかない。大阪でのほかの大会でシミュレーションをやってきました」(阪井理事長)
卓球台、ボール、カウンターなど、すべての器材で感染予防の消毒は徹底している。「観客席は赤とブルーの席が交互にあるけど、選手や帯同者が座るのはブルーの席だけにして、密にならないことを徹底。終了後にはブルーの席の消毒をします。去年学生のスタッフは70人だったけど、今年はお願いして100人を動員。スタッフと審判員で今までは150人から200人くらいだったのが、今回は300人ほど必要になりました」。そう説明してくれたのは大阪卓球協会の平尾信次会長だ。
コロナ対策のために男女ダブルスと混合ダブルスという、選手同士の距離が近い種目はやらなかったのだが、大会期間は今までと同じ1週間。換気する時間を十分に取ったためだ。
「これからコロナが収束に向かっていっても、コロナの対策はしていかなければならないし、これをモデル大会にしなければいけない。どうやったら効果的に除菌、消毒ができるのか。ガイドラインを忠実に守りながら、バドミントンやバレーボールはどうやっているのかと徹底的に調べました」と語る阪井理事長は、まさに未知の大会運営に挑んだ。
試合を司り、陰で支える審判団は全国から集まってくる。中には高齢の方もいたはずだが……。
「高齢の方ではなく、なるべく若い人から選んで審判団を作るように心がけましたが、家族や会社から『大阪に行かないでくれ』と言われ、20人ほどはキャンセルが出ました。審判もほかのスタッフもリザーブを多めに用意していたので、その人たちに協力してもらいました」(阪井)。
数カ月間かけて感染予防に時間とエネルギーを使い、準備した大阪卓球協会。しかし、大会の開幕直前で東京都など一都三県に緊急事態宣言が出て、大阪を含めた近畿圏でも感染者が急増していく事態になった。 そして大会3日目の今日、大阪にも緊急事態宣言が出されようとしている。阪井理事長は胸の内を語った。
「吉村洋文・大阪府知事が緊急事態宣言を要請するという時点で、もうやめなあかん、という思いもありました。私たちは主管団体として、大阪卓球協会の役員は全員PCR検査をして、全員陰性でした。選手の人たちに安心、安全を担保しなければいけない。開催決定も本当にギリギリのタイミングでした。日本卓球協会が開催を決めた時でも、『ヨッシャー』というよりも『ホンマにやるんか』という気持ちでした」と振り返った。
徹底した感染対策によって、選手やメディアも不自由はある。しかし、献身的なサポートが大会の開催の裏側にあることも心の中にとどめておくことも必要だろう。「いつもと違う全日本」は、選手やスタッフにとっても「特別な全日本」として記憶されるだろう。
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