12月に開催予定の「ITTF混合団体ワールドカップ」への不参加を日本卓球協会は決めた。
10月25日の夜に日本卓球協会の宮﨑義仁専務理事は通訳を介して、中国卓球協会にITTF(国際卓球連盟)混合団体ワールドカップへの不参加の理由を伝えた。日本卓球協会も選手を派遣したかったのだが、日本の代表クラスが出場参加に応じなかった。「男女3名ずつの選手が必要なのに、女子2名だけが参加に応じてくれたが、打診した十数名の選手が参加に応じなかった」(宮崎専務理事)。
その際に、中国卓球協会はそれならば中国側も相応の対応を取る。日本のTリーグに参加している中国選手を引き揚げさせる旨を伝えた。
12月4~10日に行われるITTF混合団体ワールドカップ(男女16チームで争われる)だが、この時期は世界ユース選手権とも重なっているためにジュニアの代表クラスの選手も参加できない。日本のトップ選手は世界ランキングにカウントされない大会、約10日間の遠征、そしてTリーグとも試合が重複していることもあり、参加を見送ったものと思われる。
協会派遣の世界イベントなので、それなりの選手を派遣しないと非礼に値するという見方もあるし、日本としてはエントリーのための日数が1週間ほどしかなかったことで、協会としても参戦する選手の準備ができなかったようだ。
しかし、8月下旬に発表されてから2カ月近い時間があった。結果、協会は選手たちの意志を尊重した形となったし、協会側も「Tリーグからの選手の引き揚げ」という処置をとられるとは想像していなかっただろう。
ことの発端は8月にさかのぼる。8月25日にITTF(国際卓球連盟)が「今年12月に混合団体というフォーマットでワールドカップを中国の成都で開催する」と唐突に発表。成都で5年連続開催することを確認し、調印式も行った。
今回の混合チームW杯はITTFイベントなので、日本はITTFに対してエントリーをしない旨を10月25日に伝えたが、開催協会の中国は強硬な姿勢で選手引き揚げを26日に実行。驚くほどの早さだ。これはTリーグに参戦する中国選手はハオ・シュアイ(岡山)以外は中国卓球協会の承認が必要なので、契約条件等は中国卓球協会に管理されている。そのために「日本からの選手引き揚げ」「登録していた中国選手のTリーグ参戦停止」が一斉に行われたのだろう。
とりわけ今シーズンのTリーグでの中国選手の登録は多かった。どこかのチームが中国選手を入れると、対抗するチームも入れるという連鎖で過去最高の14名の登録者数だった。
パリ五輪選考レースを戦っている中、日本卓球協会の強化本部や現場の指導陣も混合チームW杯に前向きでないことは伝わっていた。しかも、世界ランキングの対象外の大会で拘束期間が長い。
とは言え、ITTFの世界イベントに日本がエントリーしないことも前代未聞の出来事だ。「ITTF」と「世界」という冠がついている以上、これは世界選手権、世界ユースと同じカテゴリーの大会とも言える。
元強化本部の関係者も「以前と比べれば日本選手のスケジュールはタイトではないし、試合方式が違うと言っても代表クラスや若い選手にとっては世界イベントは経験になる。日本の将来や、グローバルな視点で考えてもこの大会の欠場はおかしい。世界ランキングを気にするより経験を積むべきだ」と語った。
混合チームW杯参加へ日本選手側がアクセルではなく、ブレーキを掛けた要因はふたつある。
ひとつ目の理由はパリ五輪代表の選考基準にWTT(ワールド・テーブルテニス)での成績や世界ランキングは直接的には加味されず、選考対象の国内選考会と全日本選手権、Tリーグのポイントなどが主たる基準になっている。スケジュール的にも世界ランキングと関係ない混合チームW杯に、12月の10日間を使いたくないという心理が働いたのだろう。
今回の混合団体の試合方式は以下の通り。
1番・混合ダブルス
2番・女子シングルス(混合に出てない選手)
3番・男子シングルス(混合に出てない選手)
4番・女子ダブルスまたは男子ダブルス
5番・男子ダブルスまたは女子ダブルス
*4・5番の順番は試合前に監督同士で決める
*それぞれの試合は3ゲームスマッチ(3‐0か2‐1)で、先に8ゲームを獲得したチームが勝利
この試合方式は変則的であり、試験的なものとなっている。パリ五輪の選考の佳境を迎える日本チームや選手が「通常でないやり方」を回避したとも言える。
2つ目の理由は、ITTF、もしくはWTTと日本卓球協会の関係性ではないか。世界の卓球界は現在、シンガポールを拠点とするWTTであり、その中心にいる中国卓球協会や中国のスポンサーだ。日本卓球協会は、WTTがスタートしてから、ある程度距離を置いていたことも事実だが、これは日本だけでに限ったことではない。
実際に、日本卓球協会や強化本部が代表クラスの選手たちを説得できずに、世界イベントに参戦させるという強い意志は働かなった。
1950年代以降、日中のピンポン外交は時に政治を動かすほどの強固で友好的なものだった。しかし、中国側の「選手引き揚げ」は非友好的なもので、友好関係を築くのは何十年という時間を要しても、壊れるのは一瞬で終わるということを示した。
中国やITTFからすれば、成都市と5年契約をするほどの気合を入れたイベントに水を差されたことになる。特に、混合団体というやり方では中国に対抗できる強さを持つのは日本だけなのだから、日本にメンツを潰された思いが強いのだろう。
ITTF混合チームW杯の日本の不参戦は想像以上に日本と中国の関係に大きな影を落としそうだ。
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