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全日本卓球2021

金星の及川瑞基。いぶし銀の男たちの、大会最終日

試合内容だけを見れば、完勝だろう。準々決勝の張本智和戦で、攻守に隙のないプレーを披露した及川瑞基。戦前は「張本の前陣バック連打を、プレー領域の広い及川がどう受けるか」と予想していたが、及川はバック対バックでも互角以上に対応した。「バック対バックではあまり分が良くないと思ったので、コースを突きながらなるべく前でプレーすることを意識していた」(及川)。

台から下がっても粘り強い及川だが、バック対バックでは極力前陣をキープし、張本のバックミドルをうまく攻めた。そして中盤からはバックストレート(張本のフォア)へのバックハンドで得点。このバックストレートへのボールに対し、張本は攻撃的な返球ができなかった。

どの相手に対しても、レシーブから強力なチキータで先手を取る張本だが、及川に対してはチキータでのレシーブエースはほとんどなかった。仙台ジュニアクラブ時代のみならず、木下マイスター東京でチームメイトになってからも、及川と練習する機会が多かった張本。チキータは通じないという感覚があったのかもしれない。

 ★及川瑞基・準々決勝後のコメント

「試合前からしっかり戦術を整理して、出足からラケットがしっかり前に振れていた。良いポイントもあったし、良いプレーも多かった。
ここ最近、彼とは結構練習していた。もちろん威力もあるし、強烈なんですけど、いつもよりは少し威力が落ちていたと思う。自分からもしっかり攻められていたので、相手が押されていたのかなと思います。気迫もあまりなかったように感じました。張本選手は声を出して自分を鼓舞して戦うタイプなので、少し波に乗れなかったというか、やりづらかったのかもしれない。

彼とはジュニアの部の準々決勝で一度対戦したことがあって、対戦は全日本では2回目。でも一般の準々決勝で当たるのはとてもうれしかったですし、自分の実力を彼に対して試したいという思いもあった。うれしかったです。張本は1歳か2歳くらいから小さい卓球台で練習していて、ぼくもそこで練習していた。ぼくが5歳とか6歳の頃から6年とか7年くらいはずっと一緒にやっていた。

Tリーグでは、自分の予想よりもかなり勝てていて、好調を保てていた。この感じでいけば全日本もベスト16の壁を突破できるんじゃないかと思っていた。新たに挑戦できる全日本だなとは思っていました。ここまで勝ち上がってくるのに、厳しい戦いも多かったんですけど、ひとつの目標の表彰台にまず上がれたのでうれしいです。明日の準決勝・決勝は、ここまで上がってきたらもちろん優勝したいですし、新たに気持ちを切り替えて頑張りたい」(及川)

張本を4−1で下した及川。ドイツで鍛えたプロ根性はダテではなかった

及川は今シーズンからTリーグを主戦場としたが、昨シーズンは日本人でただひとり、ドイツ・ブンデスリーガ男子1部のケーニヒスホーフェンでプレーして己を鍛えてきた。男子シングルスのベスト4の選手を眺めてみると、森薗政崇はブンデスリーガで中学生時代から10シーズンに渡ってプレーし、吉田雅己もブンデスリーガの名門グレンツァオで腕を磨いた。強豪ひしめく青森山田で、そして欧州の地で、コツコツ力を蓄えてきたプレーヤーだ。

ドイツ・ブンデスリーガで10年を過ごした森薗(手前)に全日本Vのチャンスが巡ってきた

戦術のうまさと高い集中力で、吉田は2年連続のベスト4進出

もうひとりのセミファイナリスト・田中佑汰もシングルスのビッグタイトルには恵まれていないが、高校時代は愛工大名電のキャプテンとして背中でチームメイトを引っ張った。かつて田中が日本代表として出場した世界ジュニア選手権で、男子JNTの田㔟邦史監督が語った言葉を思い出す。「田中はどんな状況でも、どんな相手でもガッツを出して最後まであきらめない。その人間性が最後に運命を引き寄せる」と。

丹羽を破って準決勝進出の田中。最後まで集中力の高いプレーを見せた

新型コロナウイルスの感染拡大によって、いつもとは違う「特別な全日本」となった今大会。紛れもなくエリートでありながら、エリートの中のエリートではなかった「いぶし銀の男たち」が作る新たな歴史が見たい。すべてが報われたような、天皇杯に映る笑顔が見たいのだ。

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