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卓球界を震撼させる世界9位ヴィンターの“奇跡のモデルチェンジ”。その背中を押したのは誰なのか

ドイツのザビーネ・ヴィンターの卓球キャリアにおいて、この1年で驚異的な変身を遂げている。長年、パワフルな攻撃型として活躍してきた彼女が、32歳でバック面に「アンチスピンラバー」を採用。2024年に69位だった世界ランキングは1年半で9位まで急上昇し、2026年ワールドカップでは3位入賞という快挙を成し遂げた。

この劇的な進化の裏側には、ヴィンターの背中を押したヘルマン・ミュールバッハ氏との緻密な用具戦略と、既存の概念を打ち破る挑戦があった。ミュールバッハ氏は37歳だが、ルクセンブルクのコーチとして、ブンデスリーガで活躍するアンチの名手、ルカ・ムラデノビッチを指導した実績を持ち、ヴィンターが30歳を過ぎ、モデルチェンジに思い悩んだ時にアドバイスを送った人だ。

ミュールバッハは現在、スピンサイト社(卓球の回転や軌道を可視化する計測システムを開発した会社)で働いているが、「ヴィンターのドライブは秒150回転、通常の女子選手はトップスピンを150回転も出せませんが、プロの平均が125回転だとしましょう。相手が125回転で打ってきた球をザビーネがアンチで受けると、最大で80回転ほどの「バックスピン(下回転)」になって返ります」と言い、ドイツのカットマン、ハン・インのカットの回転量と同程度だと説明した。

ヴィンターが使用するのは、従来のアンチスピンとは一線を画す「グランティ(Glanti)」と呼ばれるタイプだ。ミュールバッハ氏はその特徴をこう語る。 「彼女のスタイルには、摩擦ゼロのツルツルなトップシートと、極めて弾まない『デンプフルング(衝撃吸収スポンジ)』の組み合わせがベストでした」

相手の打球威力を無効化し、異次元の低弾性で翻弄する。この「止まる」技術があるからこそ、彼女の武器である強烈なフォアハンド攻撃がさらに生きてくるのだ。

生粋の攻撃型だった彼女が異質ラバーに変える決断に対し、ドイツ卓球連盟は「そんな変え方をするなら、もう代表には選べない」と事実上の引退勧告ともとれる厳しい言葉を突きつけたという。それでもヴィンターは「自分のやりたいように変える」と決意。「あんなのは卓球じゃない」という周囲の批判を「メンタルが強いから大丈夫」と笑い飛ばし、血の滲むような練習で「新しいスタイル」を自分のものにした。

ミュールバッハ氏は、このスタイルを単なる守備的戦術ではないと強調する。

「バックハンドの基礎技術があるからこそ、ラケットを反転させて攻撃に繋げる新しいスタイルが成立する。アンチはあくまで『さらなる変化を加えるための追加の武器』です」

現在、彼女の完成度はまだ50%。フォア面でもアンチを使い分けるなど、その進化は止まらない。 

「3カ月で元のレベルに戻り、1年後には中国選手を倒せるようになる。彼女は最初信じませんでしたが、今、その夢が現実になったのです」

30歳を超えてからのスタイル変更という「遅すぎた挑戦」は、今や世界卓球界のトップを脅かす脅威となっている。2028年ロサンゼルス五輪に向け、ヴィンターの挑戦は今、始まったばかりだ。(卓球王国PLUSより抜粋)

 

アンチを使いこなすザビーネ・ヴィンター

 

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