先のWTT・USスマッシュで張本智和(日本)やモーレゴード(スウェーデン)を連破し、世界ランキングを15位まで上げているロシアのウラジミール・シドレンコ。サンクトペテルブルク出身の24歳である。
ロシアは旧ソ連(ソビエト連邦)時代から、強豪国として世界的な実績を上げてきた。古くはバックハンドの名手ゴモスコフを輩出し、1980年代からはマズノフ兄弟の活躍で、世界選手権などでも上位に食い込むチームを作り上げていた。当時はロシアを中心にしながらも、ウクライナやベラルーシなどの有力選手をモスクワの訓練センターに集め、国家主導で強化するシステムだった。
しかし、1991年にソ連が崩壊すると、スポーツのあり方も共産主義体制から自由主義体制へと移行。民間クラブが選手を強化する仕組みへと変わったことで、卓球界も大きな混乱に見舞われた。これは旧ユーゴスラビアや旧チェコスロバキアなど、かつて国家体制としてスポーツを強化していた東欧諸国も同様である。分離独立した国々は、中央集権的な強化体制から民間クラブでの選手育成へと移行していったが、財政難から選手への十分なサポートが行き届かない時期が続いた。
そのため東欧の卓球界では、国が強化していたジュニア選手たちが早くに祖国を離れ、ドイツのブンデスリーガやフランスリーグなどに生活の糧とプレーの場を求める動きが加速した。
シドレンコもまた、ジュニア時代からその才能を認められ、ドイツのオクセンハウゼンにある「マスターカレッジ」で訓練を重ねて力をつけていった選手の一人だ。ジュニア期にはブンデスリーガ1部の「ノイ・ウルム」に所属。2024年シーズンからはフランス・プロAの「エンヌボン」でプレーし、昨シーズンは日本のTリーグ・静岡ジェードからも2試合に出場している。
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受け、翌月にITTF(国際卓球連盟)とETTU(ヨーロッパ卓球連合)は主催大会からロシア人選手を排除した。これにより、組織の異なるブンデスリーガやフランスリーグではプレーできたものの、世界選手権やヨーロッパ選手権への参加は叶わない日々が続いた。
これまでロシアのスポーツ選手は、2024年パリ五輪などにおいて、国を代表しない個人資格の「AIN(Athlètes Individuels Neutres=個人の中立選手)」として出場を余儀なくされていた(シドレンコ自身はパリ五輪には不参加)。しかし、国際オリンピック委員会(IOC)理事会が7月7日にロシアオリンピック委員会の資格停止処分を暫定的に解除したことで、ITTFも7月28日付でロシア人選手の完全復帰を決定。個人だけでなく、チーム(国)としても「ロシア」の名を背負ってプレーすることが可能となった。
ジュニア時代からドイツ、フランスを拠点に腕を磨いてきたシドレンコ。国家間の紛争に翻弄され、卓球界でも長らく制限を受け続けてきた身だが、ここへ来てようやく、晴れてロシア代表として国際舞台に立つことになる。

柔らかいボールタッチを見せるシドレンコ。特にバックハンドの強打とブロックを得意とする
PHOTO:WTT
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