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Tリーグ

荒れる海への船出。Tリーグが動き出す前に書くべきこと

 27日、東京・渋谷でTリーグに参加するチーム名が正式に発表される。しかし、すでに新聞でチームは報道されている。

<男子>木下グループ(母体は神奈川)・埼玉・沖縄・岡山

<女子>木下グループ(母体は神奈川)・日本生命・日本ペイント・名古屋

 当初、男女4チームずつでは少なすぎると言われていたが、その4チームを集めるのも苦労した。その理由は、Tリーグ側が提示した条件のハードルが高すぎたからだ。

 クラブの予算規模は1.5億円から2億円。世界ランキング10位程度の選手を登録する、会場や若手育成機関などが付帯条件になっていたために企業は躊躇し、ましてや地域のクラブの参加は不可能に近いものになった。

 その裏には松下浩二代表理事 専務理事の執念とメンツが見え隠れした。

 ここまで遅れたのだから、どうせスタートさせるなら大きなアドバルーンを揚げたい、世界最高のプロリーグを作りたいという執念だ。ところが、日本卓球協会の理事会での承認を取りつけるまでに数年間を要し、さらにそこから日本リーグとの共存という難題に時間を要した。

 遅れた理由を探ってみよう。

 ひとつは、日本卓球協会の指導不足と決意の不足、2つ目はこだわりすぎた日本リーグとの共存、3つ目は松下氏の資質と協力者不足。

 ひとつ目の協会の指導不足とは、強いリーダーシップを取ってTリーグを推進しようという機運がわき起こってこなかったこと。日本卓球協会の理事会とは会長推薦の理事(東京近辺に住む理事が多い)と、日本リーグや学連、高体連などの各カテゴリーの代表理事、全国のブロック理事などによって構成されている。

 正直、理事会に出てみればわかるのだが、高齢者集団だ。ましてやそのなかにヨーロッパリーグや中国の超級リーグに精通している人は皆無と言って良い。

 その理事の人たちに「日本をTリーグで盛り上げよう」「これからはTリーグが必要だ」と説いても、「はあ???」という反応になる。また当初、プロリーグ設立検討委員会があって、その中にいたのは各カテゴリーの代表者だが、「このリーグによって自分のところの組織や試合がどう影響を受けるのか」という自己保身という防衛本能が働くだけだった。そこに「Tリーグによって日本の将来を変える、このリーグを成功させよう」などという思いが果たしてあったのだろうか。

 何年か前の理事会後の会見で、当時の専務理事が記者の人に「新リーグがあったほうがいいですか、どう思いますか」と聞いてきた時には驚いた。当事者であっても、新リーグ(当時は名称はなかった)設立に疑心暗鬼だったのだろう。当時から、そして今でも協会内で「Tリーグは松下がやりたいだけ」という空気が読み取れる。

 また当時の背景として、日本が世界でメダルを獲るなどの活躍を見せ、テレビなどのメディアにも頻繁に取り上げられ、協会にも危機感を持つ人はいなかった。だから専務理事ひとりを責めることはできない。この辺の状況は、競技力や人気の面で切羽詰まった状態でまとめていったサッカーのJリーグやバスケットボールのBリーグとは決定的に違う。

 2つ目の理由は、日本リーグとの共存。プロリーグ立ち上げの際、アマリーグの日本リーグとどう組むのかは大きな課題ではあったが、当初の松下氏のプロリーグ構想の中に日本リーグとの共存は入っていなかったのではないか。企業スポーツ主体の日本リーグとプロリーグでは、あまりに目指す方向が違いすぎるからだ。

 しかし、協会としてはそうはいかない。「和をもって尊しとなす」と言われる日本人のメンタリティーとしては「みんなで仲良く」と足並みをそろえようとするのは当然なのだ。ゆえに松下氏は「日本リーグとの共存共栄」に傾いていくのだが、ここでの交渉が結果としてスタートを複雑にし、遅れてしまう起因となった。

 日本リーグのトップチームでも選手はほとんどが正社員で、契約社員は少ない。彼らの人件費と卓球部費を合わせても数千万円規模で、かつ福利厚生として運営される卓球部と、2億円近い規模のお金を集め、運営し、社会貢献と営利目的を併せ持つTリーグのクラブ運営はあまりにギャップが大きすぎる。

 唯一、日本生命だけが日本リーグからTリーグに参戦する。潤沢な資金があり、世界を目指す日本生命が、ワールドツアーなどと日程が重なる日本リーグよりも、よりレベルの高いTリーグに鞍替えするのは自明だった。また、日本リーグ参入の噂のあった日本ペイントがTリーグにシフトしたのも同じような理由だろう。

 ただ、将来的に、日本リーグがTプレミアではなく、T1T2などにシフトしていくことはあり得る。

 3つ目の理由。松下氏の資質の問題。私は彼とは30年以上の付き合いで、相当に彼を知ってるからこそあえて書かなければいけない。彼はスーパーマンではなく、長所と短所を持っている。Tリーグに関していくつかの方面から、そのプレゼンテーションに具体性が欠ける、松下氏の説明が明解でないという話が聞こえてきた。

 彼の短所は大雑把な行動。緻密さに欠ける点だ。打ち合わせをしていてもメモを取る姿はあまり見たことがない。しかし、それは「器の大きさ」とも受け取れる。大変なときでもネガティブに落ち込むことがなく、前向きになれる性格。細かなところで立ち止まらない。

 プレゼンは得意でなくても、スポンサーや興味を持つ企業のトップに臆することなく向かっていくし、断られてもへこたれない。ただ、ひとつ言えるのは、彼の緻密さや配慮を欠いたプレゼンで計画が立ち止まることもあるし、断ったチーム、企業もあったかもしれないが、松下なくしてTリーグの構想は1mmも進まなかったことだ。

 惜しむべきは、彼のビジョンや大雑把な計画を、緻密に具体性のあるものに書き換える人やプレゼンのうまいスタッフが不足していた点だ。

 松下氏は誰かの批判をすることを嫌う性格であり、基本的に優しい男である。しかし、今後、冷徹な鬼になるべき時もあるかもしれない。何十億円という価値を生み出すだろうTリーグ、世界の卓球市場やプロ選手のマーケットを動かすであろうプロリーグ。様々な利権もうごめく興行の世界。それを彼ひとりで取り仕切れるわけはない。友だち感覚ではなく、優秀な人材を配することが肝要だ。

 27日の公式発表は大きな船出の第一歩ではあるが、荒れる海は遙か遠くにある。  (今野)

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