<卓球王国別冊「卓球グッズ2017」より>
2017年に「テナジーへの橋渡し」のラバーとして発売されたバタフライの『ロゼナ』が好調に売れている。卓球王国用具ランキングでも裏ソフト部門で常に上位に入り、時には1位に輝くほどのヒット商品になった。2017年の別冊「卓球グッズ」では大澤社長にインタビューを行ったので、アーカイブとして掲載する。
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大澤卓子・㈱タマス社長に聞く
聞き手=今野昇
●―『ロゼナ』が(2017年)4月21日に発売されました。5000円(税込5500円)のラバー、その狙いとは何でしょう?
大澤 『ロゼナ』はバタフライから発売する裏ソフトとして『ブライス ハイスピード』以来1年4カ月ぶりの新ラバーですが、『ブライス ハイスピード』は弾みの高いラバー、スピードに特化したラバーです。しかし、回転や打球の弧線に優れた『テナジー』が市場では売れています。将来、『テナジー』を使いたいというユーザーに使ってほしいという考えのもとに開発したラバー、それが『ロゼナ』です。
●―開発にはどのくらいの時間を要したのですか?
大澤 昨年(2016年)の9月に着手しました。以前からテナジー系でもっとリーズナブルなラバーがほしいというニーズはありましたが、性能とコストの両立という壁が解消できなかったのです。8月のリオ五輪以後に考えたのは、『テナジー』の性能の良さを多くのユーザーにリーズナブルな価格で提供すること。本当に勝ちたいというユーザーはどの層でも『テナジー』を使っていただいていますが、『テナジー』を使ったことのない人もたくさんいらっしゃるので、『テナジー』の良さを体験してほしい、そのために『テナジー』より安価なラバーを提供したいと考えました。
●―半年間での開発・発売は相当に速いですね。
大澤 量産技術でハードルが越えられなかったのですが、原材料の選定や生産工程の改善、工夫で製造原価を落とすことができないかと考えていました。生産工程を他の製品と共通化して経費を削減できたことと、ラバーの取れ高、つまり歩留まり(使用原料に対して製品の出来高の割合)を向上させたことが大きかった。テナジーを発売した当初は不良品が出ることも多かったのですが、それを改良してきた技術の蓄積があったことで、リーズナブルなラバーが作れました。
思い返すと、ほぼ半年間で開発から発売まで持っていけた。こんな短期間に新製品を作ったのは初めてで、研究開発チームの土屋(祐一・マネジャー)に相談した時に、「(2017年)4月は厳しいです」と言われましたが、何とか4月からのシーズンに間に合わせたかった。製品設計を決めてから量産に落とし込んでいく時にも綱渡り状態の連続で、どこかで少しでもつまずいていたら4月発売には間に合わなかった。ユーザーのみなさんが試したい春の時期に『テナジー』に迫るくらい高い性能のラバーを提供できたことは感慨深いものがあります。
『ロゼナ』は4月1日に国際卓球連盟が公認を発表しないと発売できなかった。この公認を受けるまでは気を揉みましたが、2月16日までにすべての課題にメドをつけることができたので、その日に発売を発表しました。製造原価と開発コストを低くすることを心がけ、「ラバーの登録が完了しました」と聞いたのは2月中旬でした。過去の経験上、いけるという手応えを持っていましたが、製品開発には常にいくつかの落とし穴があり、そこでやり遂げられたのは良かった。
また、当社はラバーをきれいに見せることにもこだわっていて、ラバーのモールドの金型を何人もがチェックして、ちょっとした傷を何度も修正していく。今回はそれが一度でうまくいって、みんなから奇跡に近いと言われました。これは開発から生産の現場の人たちみんなの執念の結果だと思います。
●―『ロゼナ』でよく商標が取れましたね。
大澤 いくつか名前の候補とストックはありましたが、カタカナ3文字で、本当によく取れたと思います。その名前が当社のコーポレートカラーにも合致し、当社の技術とノウハウを詰め込んだ、本当に良い製品ができたという自信があります。
●―ロゼはバラ色の濃いピンクの名前。バタフライのマークの色と同じですね。
大澤 去年(2016年)の9月の段階でネーミングも決まっておらず、スポンジの色も決まっていませんでしたが、 コンセプトだけは決まっていた。『ロゼナ』という名前が決まり、5000円という手に取ってもらいやすい価格のラバーに合ったネーミングとスポンジの色だった。スポンジのカラーサンプルもいくつかあって、当社のロゴマークと近い色を選びました。最初から『テナジー』とは違う色にしようと思っていました。
●―生産工程を改良できるのであれば、それを『テナジー』にも応用し、『テナジー』をもっと安く出荷できないのですか?
大澤 『テナジー』は開発までに膨大な時間と費用を要したことに加えて、製造コストよりも性能を重視した設計になっていますが、『ロゼナ』の開発はこれを応用したものです。『テナジー』への投資を考えれば、損益分岐点を越えるには長い時間を要します。また『テナジー』発売後は利幅が取れなかった時期もありましたから。
●―『テナジー』のオープン価格と今回の『ロゼナ』の発売は関連しないのですか?
大澤 関連していません。『ロゼナ』は『テナジー』の技術を応用してできるだけ安価に提供したかった。オープン価格の理由は全く別の問題です。
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