春の全国選抜大会で、中学、高校で王座を手にした野田学園(山口)。どちらも決勝で愛工大名電(愛知)を破り、優勝カップを山口に持ち帰った。優勝から1週間が経ち、野田学園高卓球部監督の橋津文彦氏に心境を聞いた。
第50回全国高校選抜大会
【男子決勝】
野田学園 3-2 愛工大名電
岩井田 -4、-6、11、-6 萩原○
○三木 9、-8、10、6 加山
三木/木方 -5、-9、9、-14 中村/萩原○
○芝 -6、9、10、-11、11 中村
○木方 -9、8、9、7 坂井
●選抜大会で中学、高校と優勝しました。現在の心境を聞かせてください。
橋津文彦(以下・橋津) やはり夏(全中、インターハイ)に勝たないとという意識が強くて、夏に勝てば本物だなと思っています。中学は昨夏の全中で優勝して、今回の選抜でも高校よりも先に優勝を決めたので、若干プレッシャーがありました。
名電(愛工大名電高)も去年だったら吉山僚一選手、鈴木颯選手がいて、その前も谷垣佑真選手、篠塚大登選手など、シニアの大会でも勝てる選手が常に複数人いて、そこが壁になっていました。うちはここ数年では戸上隼輔はシニアでも勝てていましたが、それ以外にはいなかった。名電がチャンピオンチームであって、うちがチャレンジャーという気持ちが強かったですね。この選抜では選手層ではそれまでよりも並べることができてきたかなという思いがあります。ただ、そうはいっても名電には全日本ジュニア優勝の萩原選手がいて、3位に坂井選手がいて、うちはベスト8に3人という成績なので名電のほうが力は上です。
そうした中で今大会で勝てた理由のひとつとしてはOB(卒業生)の協力があります。今大会に限ったことではないのですが、前任の仙台育英と野田学園のOBが選抜前に山口に来てくれて選手たちと練習をしてくれました。今回でいえば岸川聖也、吉村真晴、吉村和弘、有延大夢が来てくれて、一緒に練習しながら最後には多球練習のノッカーをしてくれて、選手たちを鍛えてくれました。ダブルスの練習が吉村兄弟でしたから、こんな贅沢なことはないですよね。今回来てくれたOBだけではなく、他にもインターハイ前などに練習に来てくれる選手たちが多く、感謝しています。
●試合を振り返るとチームの戦いぶりはどうでしたか?
橋津 準々決勝までのオーダーはぼくが考えましたが、準決勝と決勝は三木と芝の2人が考えたオーダーを採用しました。去年の選抜やインターハイなどうまく行っていなかったので、流れを変えるためにそうしました。
決勝は2台進行で行われて、1番が岩井田と萩原選手、2番が三木と加山選手という対戦でした。ぼくは2台並んだベンチの真ん中よりも少しだけ三木よりのベンチに座りました。今枝監督は少しだけ萩原選手寄りに座っていました。ぼくとしてはエースの三木は絶対に落とせないという思いがあり、おそらく今枝監督も同じようにエースの萩原選手を負けさせてはいけないという考えがあってのポジションだと思います。
2台進行の際のベンチに座る位置については、いろいろな監督がいて、真ん中にドンと座る監督もいれば、完全にどちらかの台に寄って座る監督もいます。2台進行の場合は2台を同時に100パーセント見ることはできないので、負けることができない三木寄りに座りました。加山は思い切って攻めてきていたので、三木には自分の展開に持ち込めるような戦術的なアドバイスをおくっていました。もちろん、もう1台の岩井田の試合も重要で、加山の攻撃的なカウンターに三木も手こずっていたので、岩井田の試合が早く終わってしまうと三木に大きなプレッシャーがかかってしまいます。岩井田は負けはしましたが、ジュニアチャンピオンの萩原選手を相手に3ゲーム目をジュースで奪うなど粘りを見せました。三木も1台だけでのプレーにならず、横で岩井田が頑張っているのが見えていたので、途中から自分のプレーができるようになり、加山選手に勝ちました。
岩井田は準決勝では出雲北陵高のエースで先日行われた東京選手権ジュニア3位になっている小野選手を2番で破りました。今大会では三木、芝、木方の3人のサウスポーが目立っていましたが、ぼくの中では影のMVPは岩井田ではないかなと感じています。
●決勝のダブルスは両チームとも左効きペアで、かなりめずらしい対戦になりました。
橋津 ラリーが大渋滞になっていましたね(笑)。名電は即席ペアではないのでさすがのコンビネーションでしたが、うちの三木と木方は大会の2週間前に決めたペアです。右と左、左と左のペアリングを試しましたが、左と左に決めました。彼らはそれまで右利きと組んで結果を出していましたから、左左のペアで行くと言ったら、経験しことのない動きになったし、やりにくかったので不貞腐れていましたね。ゼロからのスタートでしたが、古典的なぐるぐるとお互いが回りながら動くフットワーク練習をフォアハンドとバックハンドで繰り返して、部内で右右ペア、右左ペア、左左ペアを作って練習や試合を繰り返し行いました。
選抜での試合はミスも多かったですが、入った時のボールはすごいものがあり、「2週間でここまでできるならばインターハイではタイトルが狙える」という手応えを感じました。左左のダブルスは良い部分と悪い部分が明確でわかりやすいんです。右右や右左のダブルスだと、どうやって得点、失点をしているのかが見えにくい部分がありますが、左左のダブルスはわかりやすかった。
うちは決定力勝負に持ち込むようなペアなので、ひたすらボールを避ける練習ばかりしました。サービスの時も不利、レシーブの時も不利になり、ラリーになるとお互いが邪魔になるので大渋滞になります。そこをうまく動けるように練習してきましたが、想定していたよりもうまくできていたと感じています。
●そのダブルスが落として、1-2とあとがなくなりました。
橋津 もともと後半オーダーだったのでぼくも選手たちも焦りはありませんでした。4、5番は木方が中村選手に相性が良かったので、逆の対戦のほうが少しよかったんですが、芝と木方には決勝前に「長い試合になるから、後半でしっかり準備しておくように」と伝えていたので、彼らもしっかりと準備できていました。
5番の木方が先に勝って、4番の芝と中村選手が最後になりました。芝がゲームカウント2-1で、4ゲーム目に10-9とマッチポイントを握りましたが凡ミスをして逆転負け、5ゲーム目は0-3になったタイムアウトを取り、次も取られて0-4になりました。ちょっと嫌だなと思いましたが、中村選手もプレッシャーがあったでしょうし、点数がくっつくことができればチャンスはあると思っていました。うちはこれまで名電には2-3か1-3で負けていますが、最後に芝が負けてチームも負けるという展開が多かったので、芝にとっても今回の勝利は良かったと思います。
4、5番の2台進行の時には、ぼくは両方を勝たせなかればいけないので真ん中に座って、2台を50パーセントずつ見ていました。一方で今枝監督は中村選手のほうに座っていました。ぼくは「今枝監督はその試合に勝負をかけているんだ」と思いました。5番で木方が勝ちましたが、うちとしては追いかける立ち位置は変わらない。これまでだったら後半に鈴木颯選手や谷垣佑真選手などエース級がいたのでうちとしては厳しかったんですが、今大会は同じ土俵で戦うことができる。最後の1台になったらチャレンジャーのうちに追い風が来ると思って戦っていました。
うちにとってプラスに働いたのは、声を出しての応援が解禁になったことも大きかった。マスクはしなければいけませんでしたが、応援ができたのでチームとして勢いに乗ることができました。これは決勝だけではなく大会を通じて感じたことです。
●冒頭でも話されていますが、夏に向けての手応えは。
橋津 今枝監督も名電中の真田監督もプロフェッショナルな指導者なので、そう簡単には勝たせてくれないことはわかっています。少なくても高校ではインターハイでは勝っていないので、受け身になることもうかれることもありません。チャレンジャーとして立ち向かっていかなければいけません。
うちの選手はみな攻撃力は高いのですが、安定性や戦術の引き出しの数では名電の選手よりも少ない。技術的にも戦術的にも、精神的にも大雑把に指導するのではなく、細かやかに、一人ひとりをアラカルトに指導していかなければいけないと感じています。ざっくりと多球練習をするぞ!というのではなく、選手たちの多様性を認めながら、個の強さを伸ばしてチーム作りをしていかなければいけません。ぼくと野田学園中の中川智之監督の腕の見せ所だと思っています。
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