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水谷隼「日本でのんびりやっている選手に負けたくない」

 

半年前のぼくと、今回のぼくは

全然違うサービスを出すし、

サービスが変われば

その後の戦術も違う

 

●−−9年連続の決勝進出もすごい記録です。

水谷 本当にきついんですよ。毎年5年は寿命を縮めていますよ。名前が残るのは優勝者だけですから。去年はもがいて苦しんでいる中での優勝だった。自分を取り戻すための優勝だったし、今回は順調にいっている時の優勝。

 

●−−だから自信があった……。

水谷 いや、それは自信じゃないですから(笑)。

 

●−−だって、明らかに今までと現在の到達点が違うわけだから、それは自信であり、力をつけているという手応えはあったと思います。

水谷 ありますけど、卓球の場合はあくまでも対人競技だから、記録を争うスポーツじゃないし、相手によって変わってしまう。たとえば笠原戦のように、ネットインが3本連続で続いたり、ボールが違ったりとか、そういうハプニングはあるわけで、いつも不安は抱えながらやっている。ただ以前は優勝しなきゃというガチガチの緊張感はあった。

 

●−−技術面では、自分の中でそれぞれのテクニックがアップグレードしている感じかな。

水谷 特にレシーブですかね。前よりもチキータの回数も増えている。点数を取るためにはチキータは必要な技術だし、攻撃的になっています。サービスも変わりました。その時に合った良いサービスを出します。だから半年前のぼくと、今回のぼくは全然違うサービスを出すし、サービスが変わればその後の戦術も違う。昔よりはサービスエースは確実に減っているけど、試合の組み立てはうまくなっていると思います。

 

●−−この1年、体の面ではどうでしょう。

水谷 12月くらいから4㎏ぐらい体重が増えているので、今迷っています。重くなっても筋肉をつけていくのか、体重をキープするのか、もう一回落とすのか迷っています。動きは前よりいいんですけどね。ただケガはなくしたい。最近は腰、背中、足とか全部がきつい。特に去年から、25歳を過ぎてからきつくなっています。

 

●−−メンタルは?

水谷 全然違います。相手を冷静に分析することができるようになっている。前よりは、負けたとしても仕方ないと思える。ここで負けたとしても試合は次々続いていくわけだから、次につながる試合ができればいいと思ってやっています。

 

●−−丹羽、(松平)健太が続き、その下に村松もいて、森薗もいるというように、第2集団が上がってきている中で勝ち続ける意味は大きいと思う。最初に優勝した9年前とは全日本のレベルが全然違いますね。

水谷 レベルは全然違うけど、自分は自分というか、今のままでは自分のレベルまで他の選手はこれないと思う。

 

●−−君と他の選手との違いは何でしょうか。

水谷 環境が違います。ぼくは日本の環境を嫌って海外に行ったわけで、ぼく目線で言えば日本にいたら強くなれない。ただ、生活は海外のほうが厳しいし、日本にいるほうが友だちもいるし楽しい。日本を離れたくないというのは理解できる。全日本が終わってすぐに海外へ出発して試合をする、世界選手権が終わってそのまま海外リーグでやるということばかりなので、日本でのんびりやっている選手に負けたくない。ぼくは試合もたくさんしたいし、日本では満足できないから……その意識の差じゃないですか。

今はブンデスリーガに行っている吉田(雅己)も活躍している。しんどいはしんどいけど、海外にいたほうが強くなれるという感覚があります。

 

●−−今回の全日本ではボールを含め、運営面でもいろいろ変えました。主催者の目線と選手の目線というのは違うものだけど、優勝後の記者会見でも改善してほしい部分に言及していましたね。

水谷 改善点は以前から山ほどあると思っています。今回はボールですね。ボール選びが戦術のひとつになるのはおかしい。たとえばニッタクのボールだけでやるなら何ら問題ない。いくつかの中から選ぶというやり方が問題なんです。来年からボールは1種類にしてほしい。

それに、プレーに影響がある部分で改善してほしいのは、照明と背景のLED。背景の水色に白い文字ではボールが見えない。また、上の照明は、サービスの時に全然見えなかった。照明やLEDなどプレー領域内のことは選手に意見を聞いてからやらないと、いつかモメる時がくると思う。

 

「過去の結果にこだわらず

自分の感覚が悪かったら

すぐに用具を変更できるのが強さです」

 

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