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世界卓球2025

「飯圏」の熱狂は続く。めっきり減った「中国隊、加油!」の声援

5月21日夜に行われた女子シングルス3回戦(ベスト16決定戦)。2台が設置されている会場のテーブル1で孫穎莎(中国)の試合が行われるとあって、会場の片側半分はほぼ観客で埋まった。その95%くらいは中国から「莎莎(シャシャ)」を応援に来た女性たちだ。

肝心の孫穎莎は、Ch.ルッツ(フランス)にストレートで勝利しても観客席に手を振るでもなく、いたって「塩対応」。それが逆にファン心理をくすぐるのか。足早に去りゆく後ろ姿に向けて、「莎莎、我們都愛你!(みんなあなたのこと愛してるのよ!)」と絶叫するファンの姿もあった。

「孫穎莎ガールズ」や「王楚欽ガールズ」の効果もあってか、大会の前売り券はあっという間に売り切れたという今大会。大会初日や2日目はまだ観客席も空きが目立ったのだが、昨日あたりから一気に増えてきた。「早いラウンドで負けるわけがない」という信頼感ゆえか。一方で、滞在期間をなるべく短くしたい、費用を低く抑えたいというのも実情らしい。

会場の入り口を見ていると、中国のファンばかり。ここがドーハなのかわからなくなります

コートサイドの席でも観客席でも、中国の女性ファンは必ずといっていいほどカメラを手にしている。ゲーム間になると観客席がキラキラ光るので、なんだろうと思ったらレンズの反射だった。機材は我々と比べても遜色(そんしょく)がないほどハイスペック。コートサイドで写真を撮っていて、邪魔だと不満の声をあげられたことが数回あった。

彼女たちが撮った写真は私的に楽しむのではなく、ファンの間で売買され、渡航費や滞在費の一部になるのだという。前回のダーバン大会からの帰りの飛行機で、寝る間も惜しんでパソコンで写真を整理していたファンの姿を思い出す。馬龍の小さな後ろ姿まで撮っていた。

また、一昨日の朝に観客席のエリアを訪れた時には、紅双喜のブースにゆうに200人を超えるファンの行列ができていた。来場者用に選手の顔写真が入ったサイン用ラケットなどが記念品として配布されていたのだが、それはあっという間にサイトで転売され、時に高値がつく。

紅双喜のブースの前に、大行列ができていた

「彼女たちはもともと、アイドルの追っかけをやっていた人が多いんじゃないかな。でも芸能界はセキュリティが厳しくなったので、ファンとの距離が近い卓球に流れてきている」。あるメーカー関係の方が、そんなことを教えてくれた。今大会は選手と同じ飛行機で移動できたり、VIP席で観戦できる超高額な非公式ツアーもあるというから驚きだ。

昨夜は孫穎莎が勝利したあと、王曼昱対ハン・インの試合も行われ、素晴らしいラリーの連続だったのだが、孫穎莎戦のあとにファンの多くは会場の外へ「出待ち」に行ってしまい、観客数は3割くらいまで減っていた。

お目当ての試合が終わるとファンの「大移動」が始まる

ちょっと見にくいですが、ファンの「出待ち」も200人以上はいたでしょうか

バスに向かう選手を、遠巻きに追いかけていくファンたち

かつて、個人戦・団体戦を問わず会場での応援の定番だった「中国隊、加油!(中国チーム、頑張れ!)」の応援。それが今ではめっきり少なくなり、聞こえるのは特定の選手に向けた応援ばかり。そして他国の選手の試合中は、ほとんどの人がスマートフォンをいじって顔を上げようともしない。

遠からず終わりを告げるだろうと思っていたら、落ち着くどころかさらに熱狂の度を増す「飯圏(中国語でファングループ)」による「バブル」。それでも観客席がガラガラになるよりはずっと良いだろうし、主催者側にとっては確実に観客が来てくれるのは非常に大きい。日本の張本智和や張本美和、松島輝空には中国語の声援も飛んでおり、他国の選手へ人気が波及する動きもある。

22日の現地時間11時から行われる混合ダブルス準々決勝。松島輝空/張本美和と王楚欽/孫穎莎の一戦は、まるで中国での大会のような雰囲気になりそうだ。まもなく会場へ出発します。

「李寧」のブースにあった今大会の中国選手団の写真。孫穎莎はやはりセンターポジション

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