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今野の眼

勝者なき安売り競争。 「卓球業界は異常だ」と言われている薄利多売の事情 vol.1

 

 

「卓球のような割引で売られる業界は異常だ」と

言われている。薄利多売とは言え、

ショップが自ら首を絞めている状況に

なっていないだろうか

 

どこに勝者がいるのだろう。
そこにはどのような戦略があるのだろう。
これは卓球の試合の話ではない。卓球業界での数年来の安売り競争のことだ。大手ネットショップでは大幅割引は当たり前。インターネットでの買い物が日常化している昨今、希望小売価格(定価)と実際の販売価格の乖離(かいり)で、もはや定価の意味がよくわからなくなっている。

ネットショップでは完全に薄利多売の売り方になっている。「こんなに割引をしても利益を取れるのか」と思ってしまうが、大手ショップは大量に注文して、仕入れでの購入価格を下げていくわけだから、企業努力で頑張っているとも言える。さらに、ネットのEC(eコマース=ネット販売)のシステムを作ったり、管理することにもコストがかかり、発送などの人件費もかかる。

卓球用品をネットで買う人はいわゆるネットサーフィンをしながら、それぞれのお店での割引率を比較しながら買い物をしていくと言われる。だからこそ、それがネットショップ同士の過剰な割引競争に拍車をかける。路面店(リアル店舗)で買う時はユーザー(消費者・卓球愛好者)は商品を手にとったり、お店への「情」が入るが、ネットユーザーは「情」ではなく、「数字」のほうが気になる。
市場原理からすれば、安くて良い物に人が流れていくのは当然だろう。卓球ショップのある地域では、ショップの人との触れ合いや会話、情報収集があるのだろうが、専門ショップのない地域ならネットショップで買うのは止めようもない。

卓球の商品が流通して売られるまでを追いかけてみよう。
卓球メーカーは自社工場で用具を製造するか、出来上がった商品を仕入れる。仕入れる場合でもメーカーのマーケティング(販売戦略)や要求に基づいて商品は作られる。次に、その商品は問屋(とんや)に入っていく。
問屋の役割は、注文をまとめて取ったり、在庫を準備し、すぐに発送をしたり、メーカーに代わって集金をすることだ。問屋はその対価としてマージン(手数料)を取る。問屋は複数あり、それぞれが取引をする丁合(ちょうあい)のショップを増やし、ショップも複数の問屋と取引をして、商品によって条件の良い問屋を使う。

ショップは各メーカーの商品を問屋に注文し、在庫として揃えておく。直販と呼ばれるメーカーからショップへの販売はごく一部で、例外だ。

ショップの問屋からの仕入れ価格は、ショップの販売力(多く注文したら掛け率がよくなる=歩引き)によっても変わるとも言われている。ショップは販売価格に対して20〜30%の利益(粗利=あらり)を取ることを目標にしていく。その利益を取れる前提で割引をしていくのが通例だ。

小売り(お店)の販売価格をメーカーや問屋が決めることはできない。これはいわゆる「コウトリ」と言われる公正取引委員会(行政委員会)が運用する「ドッキン」(独占禁止法)という法律があるからだ。このドッキンは自由競争を促進し、事業者(この場合で言えばショップ)が自主的な判断で創意工夫をして売り上げを伸ばすことを後押ししている。
だから、メーカー、問屋がショップに「定価で売ってください」「割引は1割までにしてください」とは公式に言えない。

「独禁」があるとは言え、スポーツ業界全体で見ても「卓球のような割引で売られる業界は異常だ」と言われている。薄利多売とは言え、ショップが自ら首を絞めている状況になっていないだろうか。
卓球愛好者にとって安く用品を買えるのだから、一見良いことのように思うのだが、そこには落とし穴が隠れている。

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