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東京五輪卓球

卓球界の「秩序」が変わった。水谷隼/伊藤美誠の金メダルがもたらすもの

人間、本当に痺れると鳥肌も立たなくなるものらしい。その代わり、体の芯、心の奥底から熱いものが次々にこみ上げてきて、ため息になって抜けていった。カメラの砲列に取り囲まれ、満面の笑顔で手を振る我らが水谷隼と伊藤美誠、そして田勢邦史コーチを見て、こんなことを考えた。「人間、簡単に限界を作っちゃダメなんだ」と。

混合ダブルス決勝で、許シンのお株を奪うように、倒れ込みながらも鋭角なカウンターで切り裂いた水谷。国際大会でさんざん悩まされてきた許シンのループドライブやカウンタードライブを、両ハンドで上から狙い打った伊藤。最終ゲーム、水谷のバックカウンター2本から2-0、4-0、6-0、8-0と離れていくスコアを見て、止まっていた時代がほこりを払って動き始める音を聞いた。

決勝の終盤は中国ペアを圧倒した水谷/伊藤ペア

これまで中国の壁に何度も跳ね返されながら、必死で穴を穿ち続けてきた水谷と、若くして独創的なプレーで大穴を開けようとしている伊藤。そのふたりが世界最強ペアの許シン/劉詩ウェンを破り、ついに長城の一角を崩した。この金メダルは重い。

混合ダブルス決勝前のメディアルームで、ある中国メディアがこんな仮見出しを用意しているのを見た。「許シン/劉詩ウェンペア、史上初の金メダル(首金)」。苦笑しながらも、それを全面否定できない自分がいた。いつかの世界選手権の表彰式のリハーサルで、結果が出る前から中国の国歌「義勇軍行進曲」を流していたのを思い出した。

そんな卓球界の無言の了解、形成されてきた「秩序」を、水谷/伊藤ペアはものの見事に打ち破ってくれた。「どえらい」ことをやってくれた。これから卓球界の秩序は確かに変わっていく。卓球というスポーツは益々面白くなる。多くの日本選手が、そして世界の若手選手が、中国に対して「俺だってやれる」「私にもやれる」と思うはずだ。

この笑顔、まさに金メダルスマイル!

コロナ禍、第5波、緊急事態宣言。その最中(さなか)に、これほどの勇気をもらえるとは……。ホテルへの帰り道で、何度涙がこみ上げたかわからない。原稿を書きながらまた泣きそうだ。

金メダル。オリンピックの卓球で金メダル。そう、やっぱり金メダルを獲ってほしかった。水谷/伊藤ペアの金メダルによって、日本は国別メダルランキングでアメリカや中国を従え、暫定1位に躍り出た。卓球の日本チームも最高の滑り出しだ。明日からのシングルスでも歴史的な活躍を期待したい。

表彰式で水谷にメダルをかける伊藤。コロナ対策の一環だが、微笑ましい光景だった

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