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世界卓球2021

【世界卓球】中国卓球、不敗の壁。それでも伊藤美誠は進み続ける

●女子シングルス準々決勝
王芸迪(中国) 10、−7、2、7、9 伊藤美誠

伊藤は昨年のITTFファイナルズで4-3で勝利していた王芸迪に敗れた。今大会は2回戦のアカシェバ(カザフスタン)戦こそストレート勝ちだったが、3回戦の芝田戦、4回戦のサウェータブット(タイ)戦は大接戦。敗戦の瀬戸際をくぐり抜け、調子を上げる選手も多いが、今大会については最後まで調子が上がらなかった。

「調整の仕方が下手なのか、事前合宿の練習では結構良いんですけど、試合に入るとあまり良くない。試合に入ると自分の卓球を見失ってしまう。どうやったら良くなるか、やってもやってもわからないし、まだまだだなと思います。あまり考え込みたくないけど、考えることが今回はいろいろありました」。試合後のミックスゾーンで、胸の内を明かした伊藤。

大会前にラリーでの対応力を強化し、「ラリーになっても大丈夫」という準備をしてきたという。中陣に下げられても動き切り、得点に結びつけるプレーに進境を見せたが、一方でサービス・レシーブからの得点率、そこで相手のコースを限定させることで生まれる両ハンド攻撃の精度は、やや下がった印象がある。王芸迪戦でも以前は少なかったバックハンドのオーバーミスが多く、読み切っての攻撃というより、「来た球を打つ」プレーに見えた。

高い技術力を誇るバックハンドにややミスが多かった伊藤

「ラリー戦への準備は必要ですけど、サービスから3球目で得点していくのが自分のスタイル。調子が良くなかった分、相手より自分に集中してしまった。相手が見えているようで2〜3割しか見えていない。サービスも考えて、広げていけない部分があった」(伊藤)

今大会の卓球台は、ボールがかなり止まると選手たちに言われており、特にメインコートは顕著だと言われる。演出用のスモークや強いライティングなど、プレー環境としてはあまり良くないようにも見える。「昨日のタイの選手(サウェータブット)との対戦では、珍しく美誠のサービスのバウンドがすごく高くなっていた。今日の試合はサービスは悪くなかったと思います。サービスエースの次の1本で何を使うか、そこの頭の冴えがなかった」(ベンチに入った松崎コーチ)。

合理性を重視し、ボールの回転を活用したミスのない「不敗の卓球」をベースに、威力やコース取りを追求する中国卓球。今大会、中国選手は何度も敗戦のピンチに立たされながら、勝負どころではミスのないプレーで勝利をもぎ取っている。王芸迪はその中では攻撃重視でスイングが大きく、フォアハンドの比率が高い「必勝寄り」の選手だったが、最近はバックハンドの比率が上がり、以前のような粗さは見られなくなっている。その根底にはやはり、不敗というベースがある。

中国女子の中では「ゴリゴリ」タイプに映るが、攻守に完成度を増してきた王芸迪

中国から徹底的にマークされる中で、必勝と不敗の狭間でどのようなプレーを目指すのか。彼女はこれまで、卓球界の常識や固定概念を何度も打ち破り、大会のたびに新しい「なにか」を見せてくれる創造者だった。立ち向かう強大な壁・中国には「流水不腐」、「流れる水は腐らず、淀むことがない」ということわざがある。まだまだ、ここからだ。ときに曲がり、ときに溜まることはあっても、流れる水はまっすぐに勝利の大海を目指す。

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