昨年12月のJTTLファイナル4で、デンソーポラリスの主将としてチームを優勝に導いた野村萌。決勝のサンリツ戦では、2番でカットの牛嶋星羅にゲームオール11ー9という接戦で競り勝ち、チームの初優勝に大きく貢献した。
試合後、「最後の団体戦で優勝できて、本当に素直にうれしい」と笑顔で語り、今年で現役を引退することを明かした野村。「勝てなくなってやめるのが本当に嫌で、一番強い時にやめたくて、まさに今かなと。『早くやめろ』と思われるより、『残念だな』と思ってもらえるうちが華かなと思います」と優勝後に語っていた。
その野村が迎えた、現役最後の全日本選手権。ベンチに入ったのは母・裕子さんだ。3回戦で石田瑳歩(百十四銀行)に2ゲームを先取されながら逆転勝ちし、4回戦ではスーパーシードの出雲美空(レゾナック)との異質対決を4ー1で制し、「ラン決」の5回戦へと進んだ。
ラン決の対戦相手は横井咲桜(ミキハウス)。バック面の表ソフトのミート打ちで、横井の強烈なバックドライブと互角に打ち合い、チャンスボールは強烈なフォアスマッシュで打ち抜く。

ミート系の打法しか使わないが、安定性と威力を兼ね備えた野村のバックハンド
紛れもなく、日本女子でトップクラスの選手のひとり。そう確信させるプレー内容だったが、ゲームカウント1ー1の3ゲーム目、先にゲームポイントを奪いながら落としたのが響き、1ー4で敗れた。現役最後のシングルスでの戦いが終わった。
試合後のミックスゾーンで、「終わっちゃったなー、って感じです」と試合を振り返った野村。「横井さんは強いのは当たり前。私が弱気で守ってもしかたがないと思って、ラストだし思い切って試合をしようと思っていた。やることをやって終わろうと思ってプレーしたから、良いプレーも何発か出たんじゃないかと思います」(野村)。
「試合が終わった瞬間は、『フラッシュバック』というのはこういうことを言うんだなと思いました。思い出したのは練習がきつかったこととか、怒られたこととか、苦しみながらも試合で勝てて喜んだこととか……。
一番フラッシュバックしたのは、ベンチにお母さんがいたこともあるんですけど、小中学生の頃、試合で負けて観客席に戻って、お母さんにすごく怒られたこと(笑)。でも最後は、勝ってうれしかった試合や楽しかった試合がバーッと思い浮かんだので、良い卓球人生だったかなと思います」(野村)。

現役最後のシングルスを終え、母と抱き合う野村
ベンチに入った母・裕子さんは、遠方の大会でも必ず娘の応援に駆けつける「名物お母さん」だったという。
「どの選手からも『いつでもお母さんいるね』と言われるくらい応援に来てくれて、私を一番応援してくれた。22年間、不自由なく卓球をやらせてくれて、試合にも出させてもらって、お母さんもお父さんにも家族にも、本当に感謝の気持ちでいっぱい。感謝の思いしかないです」(野村)。
試合後のベンチで涙を見せた母・裕子さんは「22年間、お疲れさまでした」と娘をねぎらった。「本当に私も楽しませてもらって、一喜一憂しながらいろんなところに行かせてもらって、最後はこんなに近くで試合を見させてもらった。これ以上の幸せはないです」(裕子さん)。

ベンチに入った母・裕子さんと笑顔でピース
2001年3月11日生まれの野村は、早生まれだが平野美宇・伊藤美誠・早田ひなと同学年の「もうひとりの黄金世代」。Tリーグでは2022-2023シーズンから九州アスティーダ(現・九州カリーナ)に所属し、1シーズン目から鄭怡静(チャイニーズタイペイ)やリ・ジャイ(中国)、杜凱琹(香港)といったワールドクラスの選手たちを破った。国際大会への出場歴は多くはないが、独創的な異質速攻で存在感を放った。
彼女が地元・愛知での豊田インターハイで優勝した時も、翌年に熊本で行われた全日本社会人を社会人1年目で制した時も、コートサイドで歓喜の瞬間を見守っていた。勝利の瞬間の「萌スマイル」と、勝っても負けても堂々とした試合態度が印象的なプレーヤーだった。残るは地元・愛知で迎える『全農杯 2026年全日本卓球選手権大会 ダブルスの部』。妹・光と組む女子ダブルス、そして混合ダブルスにも出場する。
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