女子シングルス4回戦、5回戦と隣り合わせの8コートと17コートで試合を重ねた平野美宇(木下グループ)と伊藤美誠(スターツ)。2試合とも伊藤が先に勝利を決め、平野が続く形だったが、6回戦でそれが崩れた。大藤沙月(ミキハウス)をストレートで下した平野に対し、伊藤はゲームカウント3ー1のリードから木村香純(トップおとめピンポンズ名古屋)に逆転を許した。
パリオリンピック選考ポイントのランキングで2位の平野と3位の伊藤。6回戦で伊藤が敗れた時点で、平野を上回る可能性はなくなり、平野が早田ひな(日本生命)に続く、二人目のパリオリンピック・シングルス代表候補内定選手となった。
大会5日目の今日、1月26日(金)は女子シングルス4・5・6回戦が行われ、7ゲームズマッチを3試合戦うハードなスケジュール。上位進出のカギを握る「決戦の金曜日」に、2年半に及ぶパリオリンピックの代表選考レースは終結の時を迎えた。
試合後の会見で大藤戦を振り返り、平野は「(5回戦と6回戦の)ふたつの試合で勝ち切ることができたので、大藤選手との試合でも自分のやるべきことをやり切れた」と語った。昨日の会見でも「1試合目から決勝のつもりで戦いたい」と語っていた平野だが、大苦戦した4回戦の面手凛(山陽学園高)戦の最終ゲーム中盤で、改めてその覚悟が定まったように見えた。勝負所でバック対バックからのストレート攻撃、思い切りの良い回り込み強打が決まった。
平野は大藤戦後の会見の後、伊藤の敗戦を受けて改めて五輪代表候補内定の会見を実施。その冒頭で「自分の試合が勝って終わってから、少し経って(五輪代表が)決まったのでまだ実感が完全に湧いていないんですけど、決まったのは事実なのですごくうれしい」と語った。
その表情には安堵の色が浮かんでいたものの、満面の笑顔はなかった。「実感が湧かない」というのはまさしく実感であったろう。
前回の東京オリンピックでの代表選考レースでは、最終盤で石川佳純に僅差で敗れ、団体戦のみの出場となった平野。
「東京オリンピックの時は、卓球から逃げたいと思っていた。最後の本当に大事なところで卓球が嫌いになってしまった。でも、今回は逃げずにここまでやってこられたし、この2年で、自分でいうのもなんですけど、大人になれたのかなと思います」(平野)
東京オリンピックの選考レースでは精神的に追い込まれ、決着がついた2019年のITTFワールドツアー・グランドファイナルでのやつれた表情は痛々しかった。2017年に全日本選手権やアジア選手権を制し、驚異のスタートダッシュを決めてからの失速に、今回の選考レースでも「もし逆転されたら」という思いが頭をよぎったという。
「また逆転されたらどうしようと思いましたけど、乗り切れたのは今後の人生にも生きると思います。『あきらめずにやっていけば夢はかなう』と思ったし、自分をほめてあげたいし、周りの見てくださる方にもそれを伝えられればと思います」(平野)
選考レースのターニングポイントに挙げたのは、優勝した2022年11月の『全農CUP TOP32 船橋大会』(第3回選考会)。準々決勝で伊藤、決勝で早田を下して優勝した。「あそこで優勝できなかったら世界選手権にも出られなかったし、大会まで1カ月、2カ月、死ぬ気で練習して、伊藤選手の対策を練って、伊藤選手に6年ぶりくらいに勝って優勝できた。それが自分の中でのターニングポイントだったと思います」(平野)。
昨日の会見から、「自分の人生は自分でコントロールする」というキーワードを何度も口にしている平野。その彼女がパリオリンピックで目指すものは何か。「パリでシングルスに出るからには、メダルだったり、中国選手に勝って銀メダル以上を獲らないと面白くないなと思う。そういう姿を見せられるよう、1日ずつ成長していきたいです」(平野)。
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