初優勝まであと3点だった。女子ダブルス決勝の最終ゲーム、8ー6でリードを奪った佐藤瞳/橋本帆乃香ペア。ここで、最終ゲームの中盤でミスが続いていた、対戦ペアの長崎美柚がつないだフォアブロックが、エッジをかすめて入った。
「(最終ゲームの)8ー6で向こうがラッキーなポイントを取ってから、長崎選手がちょっと気持ちを入れ替えて打ってくるようになった」。試合後の会見で、佐藤はそう語っている。
「私は結構顔を見て試合をしていたんですけど、あの(8ー6での)1本を取ったあとの長崎選手の表情であったり、姿勢というのは『あそこでギアを入れたな』『まだチャンスがあると思って踏ん張ってきたな』というのをすごく感じていました」(佐藤)。
最終ゲームの4ー4で橋本のロビングに対し、フォアでのストップで前に落とそうとしてラケットを大きく弾かれていた長崎。1ー4から追い上げてきた佐藤/橋本がそこで逆転し、リードを奪った。そのまま勝利してもおかしくなかったが、「最後は長崎選手が気持ちを切り替えて振ってきた。そこが最後の、勝つか負けるかの差だったのかなと思います」と橋本はコメントした。
カットの安定性は抜群、木原/長崎の前後の揺さぶりにも感動的なまでに対応し、少しでも攻撃のチャンスがあればすかさず打って出た佐藤/橋本。全日本選手権・女子ダブルスでのカットペアの優勝は、1979(昭和54)年度大会の高橋省子/川東加代子が最後。実に44年ぶりのカットペアの優勝に向け、ミスが出てもためらわずに反撃に打って出た。「このチャンスをものにする」という確かな意志を感じるプレーだった。
試合後、表彰式を待つ同じミキハウスの芝田沙季/大藤沙月に肩を抱かれ、涙を流した橋本。「ひと言で言ったら悔しいしかない。流れはあったと思うんですけど、それを最後しっかり勝ちきれなかったのは自分たちの実力が足りなかったのかなと思う。来年優勝できるように出直します。自分たちがリスクを負っても最後まで戦えるように、どんどん精度を高める練習をしていかないといけない」(橋本)。
一方の佐藤は「今年は伊藤選手と早田選手のペアが出ていなかった。全ペアが初優勝を目指して挑んできた全日本で、自分たちは『この舞台で優勝するんだ』という気持ちで、良い状態で臨めたと思います」とコメント。「最終ゲームは8ー6でのアンラッキーなポイントから、向こうもさらに気持ちを上げて攻めてきた。自分たちももう1回エンジンを掛け直していく気持ちが必要だった。そこが足りなかったから、最後負けてしまったのかなと思います」(佐藤)。
長く希少な戦型と言われているカット型。同時期に同世代で同レベルの、優れたカット型が出会わなければ、全日本で優勝を狙えるようなカットペアは成立しない。2019年世界選手権3位の佐藤瞳と橋本帆乃香には、すでに全日本で頂点に立つ実力が備わっている。取り切れなかった「あと3点」、来年はもう一段ギアを上げて、全日本の舞台でリベンジだ。
ツイート