昨日2月24日に行われた、世界卓球(団体戦)釜山大会の女子決勝。3時間半を超え、ラストまでもつれた日本と中国の大一番。中国ベンチから試合を見守っていたのが王曼昱(ワン・マンユ)だ。
言わずとしれた2021年世界選手権ヒューストン大会の女王。176cmの長身と長いリーチから繰り出す強烈な両ハンドドライブで、今大会でも中国女子が苦しめられた第1ステージのインド戦で2点を挙げ、チームの危機を救った。
しかし、決勝3番で起用されたのは王芸迪。気迫あふれるファイターだが、決勝では出足から台上のバック強打を2本連続でミスするなど、緊張を隠せず。絶好調の平野美宇にストレートで敗れた。
なぜ、王曼昱ではなく王芸迪が決勝に出場したのか。それは中国チームが2023年5月に発表した、パリオリンピックのシングルス代表の選考方式によるものだ。
日本ではパリ五輪代表の選考レースは終了したが、中国は今も選考レースの真っ最中。パリ五輪のシングルス中国代表は、世界ランキングポイントに国際大会での成績に応じて与えられるボーナスポイントを加えた「パリ五輪シングルス選考ポイント」で、上位2名に入った選手(2024年5月7日時点)にその権利が与えられる。
この国際大会でのボーナスポイントは、世界選手権やアジア選手権などの団体戦にも適用され、今回の釜山大会の場合、決勝で勝利すると800ポイント、準決勝で勝利すると400ポイント、準々決勝では200ポイントといった具合だ。
そしてこの選考方式には、次のような規定がある。
「主要な国際大会の団体戦の決勝トーナメントは、世界ランキングの上位3名が優先的に出場の資格を得る。その資格を放棄したり、故障や病気などの不可抗力によって出場できない場合、国家チームのコーチ陣が他の選手を代替出場させることができる」
「優先的に資格を得る」とあるが、2023年のアジア選手権では女子団体準決勝に世界ランキング3位の陳幸同が出場し、決勝の直前に発表された世界ランキングで入れ替わりで3位になった王芸迪が決勝に出場したケースもある。実際には選手の交代は可能であり、すべての決定権は中国卓球協会に委ねられるが、かなり厳格に適用されているようだ。
釜山大会でも決勝トーナメントに入ってから、中国女子は世界ランキング1位の孫穎莎、2位の王芸迪、3位の陳夢しかコートに立っていない。決勝でも対日本選手の戦績を考えれば、王芸迪より王曼昱が出場していたはずだが、規定の適用によってベンチを温める結果になった。
「公平・公正・公開」の「三公」をスローガンに、透明性の高い選手選考を目指す中国だが、女子決勝はそれゆえにベストのオーダーを組むことができず、日本に1−2のリードを許したとも言える。
女子決勝5番の張本美和対陳夢の試合中、ベンチの孫穎莎は陳夢が1本取るごとに立ち上がり、ものすごい形相で応援していた。陳夢も試合終盤で見せた気迫は、優勝した東京オリンピックの女子シングルス決勝にまさるとも劣らないものだった。中国のテレビ取材を受ける前、プレッシャーから解放された彼女たちは泣きじゃくっていたという。世界女王や五輪女王にとっても、それほどハードな一戦だったのだ。
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