大会5日目の2月20日、今日は試合がない日本男女チーム。選手たちは午前中から会場で軽めの調整練習を行い、汗を流している。
練習前にミックスゾーンで取材に応じてくれたのは、平野美宇・木原美悠・張本美和の3選手。15歳の張本は今日だけでなく、夜の試合が続いても毎朝練習に来ていたという。「朝ちゃんと起きて、体を動かしたほうが1日のコンディションが良いですね。ほとんど毎日、朝は練習に来ていました。そのおかげで本当に調子が良くて、睡眠時間もしっかり取れているので、コンディションはすごく良いです」(張本)。
今回が世界卓球団体戦のデビュー戦となる張本。初戦のルクセンブルク戦で倪夏蓮、最終戦のブラジル戦でB.タカハシという経験豊富な実力者との対戦。試合の間隔が空き、対応が難しい試合だったが、どちらの試合もストレートで勝利。張本は第1ステージの戦いを振り返り、こんなコメントを残している。
「自分があまり攻めるチャンスがなかった時、逆に無理に攻めずに相手に打たせてからの展開にして、自分の中で少し余裕を持ってプレーできたのが良かったです」(張本)
倪夏蓮戦もB.タカハシ戦も、1ゲーム目はジュースまでもつれた張本。中盤で劣勢に立たされ、B.タカハシには7−10でゲームポイントも握られたが、どちらの試合でも張本はあえて相手のフォアへボールを送り、打たせてミスを誘って逆転した。
B.タカハシ戦では、相手のバック強打をまともに受けては不利と見るや、フォア前への低く正確なサービスとネット際の巧みな駆け引きで得点を重ねた。フォア前のレシーブをミスしたB.タカハシが、いら立ってボールをパーンとはたく場面もあったが、そうなれば張本の思うツボだ。
日本女子チームの渡辺武弘監督は、「無理に攻めずに冷静にプレーできた」という張本のコメントへの感想を求められ、「フフフ」と驚嘆の笑いを漏らした後、こう語った。「どこにあんな引き出しがあるんだというか、落ち着いていますよね。本当に15歳なのかなと。素晴らしいと思います」。
5歳年上の兄・智和は、バックハンドの快速速攻と一発のフォア強打による「必勝型」のプレーで世界の階段を駆け上がり、後から台上プレーや堅い守備力、フットワークなどを高めていった。妹・美和は対照的に、精緻な台上プレーや安定した守備、正確なフットワークを駆使する「不敗型」のプレーに爆発力を加えていくのか。堅い信頼関係で結ばれたふたりの兄妹の、プレーヤーとしての出発点と成長曲線は興味深い。
そして頭の中で「参りました!」と叫んでしまったのが、今日の調整練習で何に取り組むのかを尋ねられた時のこと。張本(美和)は「「相手の選手が変われば、自分が攻められるかどうかも変わってくる。だから具体的にどういう練習をするのかは決まっていないですけど……」と前置きをしたうえで、こう言葉を繋いだ。
「1球1球全力でしっかり取り組んで、無駄な1球にしないように練習することが大事かなと思います。それがやっぱり試合に出てしまうので、特に意識しながら練習したいなと思います」
さながら稽古での油断を戒(いまし)めた、剣豪の金言のようなひと言。張本美和が言うからこそ説得力があった。彼女の「引き出しの多さ」を支える多彩で正確なテクニックは、そうして1球1球磨き抜かれてきたものなのだ。渡辺監督のように、思わず「フフフ」と驚嘆の笑い声を漏らすところだった。
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