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世界卓球2022

高めたのは精度。目を見張った張本智和の「フォアハンドの進化」

男子団体準決勝の中国戦で、2番で王楚欽を3ー1、4番で樊振東を3ー2で破り、中国から2点を奪った張本智和。

「中国選手にストレートで勝つことはほぼ不可能でしたけど、最後はお互いに意地比べ。そこで勝てたのは何よりの自信になりました」と語った張本。一方、4番で張本にゲームオール9ー11で敗れた現世界王者、世界ランキング1位の樊振東は試合後、「この準決勝という重要な舞台で、張本の状態は非常に良かった。2番での王楚欽戦でもがむしゃらに攻めるだけでなく、細かい部分までしっかり準備をしていて、以前とは変化を感じた」と語っている。「張本との試合では少しプレッシャーもあった。(ゲームカウント)2ー1でリードできたけど、大事な場面で良いプレーができなかった」(樊振東)。

世界ランキング1位の樊振東にゲームオール11ー9で打ち勝った

 

樊振東は張本に対し、バック対バックの早いラリー展開からストレート、つまり張本のフォアサイドを突いてきた。これまではとっさにフォアに送られたボールにミスが出たり、合わせるだけのボールになることがあったが、樊振東戦では打球点を落とさずにフォアドライブで返球し、互角のラリーに持ち込めていた。このフォアハンドの変化は、中国側も把握しきれていなかったのかもしれない。

世界トップレベルのバックハンドの技術力を誇りながら、フォアハンドが課題だと指摘されることが多かった張本。その改善に本気で取り組み始めたのは、苦い敗戦の連続がきっかけだった。昨年11月の世界選手権ヒューストン大会(個人戦)では優勝候補のひとりに挙げられながら、2回戦でディヤス(ポーランド)に惜敗。今年1月の全日本選手権6回戦では、吉村真晴に敗れてベスト16という成績に終わった。

いずれもバック対バックのラリーでは優位に立ちながら、フォアを厳しく突かれたり、早いピッチのラリーからフォアに回された時にフォアハンドの質が下がりやすく、敗因のひとつになっていた。豪快なフォアの3球目攻撃の威力は目を見張るものがあるが、ラリーの中でフォアハンドの精度が低くなってしまう。

張本にとって最優先の課題はやはりフォアハンドだと感じた、男子ナショナルチームの田勢邦史監督は、董崎岷(トン・キミン)コーチに重点的な指導を依頼。動かされた時に「飛びつき」や「回り込み」のフットワークで大きく動き、相手に打ち負けないこと。フォアハンドとバックハンドを切り替えた時に打球点を落とさず、足さばきの細かな微調整を行うこと。卓球は常に足を止めず、動きながら打ち続けるスポーツだ。大きく動いた時も、小さく動いた時

も精度の高いフォアハンドを打つことを張本に求めた。

張本は樊振東戦で、回り込みフォアドライブ、飛びつきフォアドライブなど
大きく動いてのフォアハンドでも得点を奪っていた

「特長であるバックハンドを伸ばすという視点がある一方で、やはり卓球は相手に弱点を攻められるスポーツなんです。(張本)智和はフォアハンドを課題として受け入れ、そこから目を背けずに改善に取り組んでくれた。中国戦では連打で、何本でも良いボールを打てていたと思いますね」(田勢監督)

張本自身も中国戦後、「フォアハンドについてはフォームを大きく変えるというより、精度を高めてミスを減らすことを意識しています。今日の試合では早いラリーでも無理せず、コンパクトに振れていたし、状況に応じて良いフォアハンドが打てていた」と語っている。

もともとかなり浅めの張本のフォアハンドのグリップだが、親指の位置などを見てもより浅くなった印象があり、スイングもよりコンパクトで力の抜けたものになった。ボールタッチにも柔らかさが出てきた。フォア主戦の選手のバックハンド強化、バック主戦の選手のフォアハンド強化はプレーのバランスを崩しやすく、相当な時間がかかるものだが、張本の吸収力の早さには脱帽だ。

張本にはバックハンドという大砲がある。現代卓球の主流であるバック対バックのラリーでは、その武器を最大限に活かし、フォアに振られた時や台から下げられた時にはフォアハンドの精度とコース取りで対応する。中国のお膝元で見せた、張本智和の新境地。苦難の時期を乗り越え、最強軍団に正面から挑戦状を突きつけた。

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