●男子シングルス4回戦
戸上隼輔(明治大) 4、10、4、5 泊航太(日本体育大)
男子シングルス4回戦、泊航太(日本体育大)にストレートで勝利した前回チャンピオン、戸上隼輔。
2020年大会のチャンピオンである宇田幸矢は翌年の全日本選手権の4回戦で敗れ、2021年大会のチャンピオンである及川瑞基もまた、5回戦で敗戦を喫した。「全日本V10」水谷隼の凄みを際立たせるように、2大会連続で前回大会のチャンピオンが早いラウンドで姿を消す中で、戸上に気負う様子は見られなかった。
フロアの端の関係者用の通路で、第4コートで行われた戸上の試合をしばらく見ていたが、プレーも表情も落ち着きがあり、ゆったりとして見えた。自分から攻めることにこだわるよりも、常に相手を観察しながら、最も効果的な一撃を探る。かつての「カミソリドライブ」の連打から、ひとつ違う段階に進みつつある。
弊誌・卓球王国3月号に掲載されたドイツからの現地リポート『挑戦者たちの現在地』。戸上がドイツで腕を磨く名門クラブ、オクセンハウゼンのヘッドコーチであるフー・ヤンは、ライターの高樹ミナさんの取材に対してこんなコメントを残している。「戸上は直線的で速いラリーには強い。ところがスローなボールや変化のあるボールが来ると、タイミングが狂ってミスが出てしまう。これは日本の選手に共通する課題です」。
「自分はかなり攻め急いでしまうクセがあるので、我慢してボールを懐(ふところ)までもっていっていいと自分に言い聞かせながら戦っていました。かなり良いプレーができたと感じています」。4回戦を終えた戸上が試合後に残したコメントからは、ドイツ修行での確かな手応えを感じさせる。
戸上はまた、「相手が今何を嫌がっていて、どこを狙っているのを自分の中で分析しながら、読み取りながら試合をしていた」とも語っている。
「『ここは絶対にチキータを狙っているな』とか、それを読んでロングサービスを出して得点することもできたし、間違いではなかったと自信を持てています」(戸上)。攻撃だけに意識が偏るのではなく、少しの余裕を持って相手を観察することで生まれるひらめきと実行力。それは戸上がドイツ修行で掲げた重要なテーマでもあった。
オリンピック2連覇のレジェンド、馬龍(中国)はフルスイングのパワードライブを連発する重戦車のようなスタイルから、一撃のパワードライブの残像を相手に植え付け、台上プレーと守備技術で得点を重ねるしたたかなオールラウンダーへ進化していった。2歳年下の張本智和の背中を見つめながら、戸上もまた同じ道を歩もうとしているのか。それとも全く違う道筋が見えているのか。
世界を旅した作家の故・開高健が、タイのこんな諺(ことわざ)を好んで引用していた。「毒蛇(どくじゃ)は急がない」。自分に自信がある者は悠然として、常に落ち着きがあり、最後には必ず目標を達成するのだと。21歳の戸上隼輔が歩もうとしている道は、いわば毒蛇の道なのかもしれない。誰もが認める好青年を、毒蛇に例えるのは少々気が引けるけれど。
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