5月19日0時5分発の便でダーバンへ飛ぶべく向かった18日夜の羽田空港で、見覚えのある人物を発見。最初は「人違いかな?」と思って見ていると、こちらへ笑顔で手を振ってくれている。その人物とは、審判員の今野啓さん。全日本選手権決勝でも何度も主審・副審を務めており、会場によく響く穏やかな声を聞けば、「ああ、あの声の人」とピンとくる方もいるのではないだろうか。羽田空港にいた理由も当然、ダーバンへ向かい、審判員として世界選手権に参加するためだ。
その今野さん、職業は宮城県内の中学校の教員。話を聞くと5月16~18日にかけて修学旅行の引率で東京へ来ており、18日の16時45分に仙台へと戻ると、そこから1時間もしないうちに新幹線へ飛び乗り再び東京へ。そして19日0時5分の便でダーバンへと飛ぶ、まさに強行軍で世界選手権に参加しているという。本人は「東京に残れば良かったのにと言われますけど、生徒には『家に帰るまでが修学旅行だぞ』と言っている身なので、さすがにそれはできず」とのこと。ただ、「修学旅行の延長戦のような感じですかね~」と出発前に楽しそうに話していた。
今大会の審判員を務めることになった経緯を聞くと、まず、日本卓球協会から資格を持つすべての審判員に対してダーバン大会の審判員募集の案内があり、希望者の中から国内選考でITTF(国際卓球連盟)にノミネートする2名を決定。その後、ITTF内での選考も通過して世界選手権で審判を務めることになったという。南アフリカで開催されている今大会、海外から参加している審判員は18名いるそうだが、今野さんは日本人でただ1人、そのメンバーに選出されている。
今大会は1コートを4人の審判員で担当しているそうで、1試合につき2人が主審・副審としてジャッジを担当する。1試合40分でタイムテーブルが組まれているため、1試合ジャッジをしたら、ちょっと休んでまたコートへ、と目まぐるしく試合の進行にあたる。お話をうかがった大会2日目の時点で十数試合を担当したという。
今でこそメインコートでも、海外選手の試合でも堂々とした振る舞いでジャッジする今野さんだが、審判員として初めて参加した2014年世界選手権団体戦・東京大会は「恐怖しかなかった」と語る。
「正式な審判法もほとんど知らないまま臨んだので、海外の審判員とペアを組んでジャッジすると、『こいつ、何もやらないぞ?』と怒られたり、不思議がられたりされたんですね。だから、審判をしていても恐怖しかなくて、楽しかった思い出はほとんどない(笑)。
でも、なぜかそこから『もう一度やってみたい』と思って、その年に上海であった世界ジュニアの審判員に応募したところ、参加させてもらえることに。この時は審判法も勉強して、しっかり準備して大会に行きました。そうして上海に行ってから、審判というものを楽しめるようになりましたね」
また、海外に長い期間滞在して審判をするという経験は実に新鮮だったとも振り返る。
「国際大会でいつも感じるのは、審判チームが本当に素敵だということ。当然、試合も審判も楽しいんですけど、業務にあたっていても温かい方ばかりだし、食事をしている時は卓球から離れてお互いの文化の話をしたり、そういう時間が本当に素晴らしい。審判チームの1人として、あの時間や雰囲気をもう一度味わいたいという気持ちが強いですね」
今野さんが今大会で審判を務めるのは24日まで。残念ながら大会の途中で仙台へ戻ることとなっている。それでも、世界選手権を心から楽しむつもりだ。
「今回は楽しみしかなくて、実際、めちゃくちゃ楽しんでます。選手が本気でやっている中、審判が『楽しい』と言うのも変かもしれませんが、それが本音ですね。審判として責任ある立場でこんな舞台に関わらせてもらって、その責任を果たしていく楽しさもあります。また、こうした場に立たせてもらえるよう頑張りたいと思います」
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