決勝で野田学園を3-1で破り、見事学校対抗6連覇を達成した愛工大名電。表彰式後の優勝インタビューで今枝一郎監督は「毎回そうだけど、優勝はめちゃくちゃうれしい。めちゃくちゃ」と語ったが、その口ぶりには高揚感が漂っていた。あと一歩まで追い詰められた出雲北陵戦、4・5番の試合が始まる前のベンチで今枝監督は選手たちを集め声をかけた。
「(準決勝の出雲北陵戦は)強いとは思っていたけど、オーダーも流れもすべて悪いなと感じていました。取れそうで取れないゲームが続いて、ネットインやエッジ、不運なポイントもあって苦しかったですね。
鈴木(颯)/萩原(啓至)は団体戦で起用するのは初めてでした。昨日のダブルスで優勝して、『野田学園さんに勝つためにチャレンジしよう』と吉山(僚一)/中村(煌和)に代えて準決勝から起用しました。(1年生の)坂井(雄飛)もインターハイのこんな舞台で試合をするのは初めて。準決勝は初めてづくしの中でよく踏ん張ってくれたと思います。
ダブルスが負けて1-2になって、4番の鈴木の頑張りもですけど、5番の佐藤(卓斗)くんも実力者ですし、苦しむんじゃないかと考えていた中で中村が先に勝ってくれたのは大きかった。あれで鈴木も引き締まったというか、余裕が生まれた部分もあると思う。『あとはオレが勝つだけだ』と思ったんじゃないですか。中村については『力強いプレーをしてくれるな』と思って見ていました。
(ダブルスで敗れ、後がなくなった場面でベンチで選手を集めて話していたが)いつも言うんですけど、あそこでしたのは『負けたら負けたでしょうがない。責任は私にある。だから思い切ってやってくれればそれで良い』という話ですね。準決勝のあの場面でも『ここからでしょ、本当の力を発揮するのは。だからもう一段階、みんなで団結しよう』と声をかけました。戦術の話もしていないし、本当に青春、部活動ですよね。苦しい時こそ、オレたちが今までやってきたことが出るはずだから、『伝統の力を信じよう』と」
逆境を乗り越えて迎えた決勝では選抜決勝でも対戦した野田学園と対戦。戦力的には互角と見られたライバルとの対戦に3-1で勝利して優勝を決めたが、準決勝の苦戦が決勝に活きたと語る。
「決勝では中村を前半にとも考えたけど、準決勝5番の試合で彼の後半でのプレーは頼もしいと感じて決勝も5番にオーダーしました(記録には残らないが、同時進行の4番よりも先に勝利して優勝が決定)。ダブルスも準決勝では負けたけど、その敗戦で学び、決勝では力強いプレーをしてくれた。あの準決勝のたった1試合の中で選手が成長してくれましたね。
ウチは吉山と鈴木の2人と他の選手では力の差があるけど、野田学園さんは力の落ちる選手がいなくて、本当に全員がエース。だから正直、『誰が何番で誰と』ということはそんなに考えず、自分たちが納得できるオーダーでぶつかろうと思っていました。強い相手だからこそ、王道で勝負。その中で選手たちが素晴らしいプレーをしてくれました」
優勝を決めた後のベンチで、今枝監督はチームの2本柱である吉山と鈴木と抱擁を交わした。そこには後輩であり、伝統あるチームを背負って戦ってきた2人へのリスペクトが込められている。
「吉山と鈴木はものすごいプレッシャーの中で試合をしているんですよね。彼らは中学から高校まで名電でやってきて、先輩たちの勝つ姿も見ているし、苦しんでいる姿も見ている。名電の伝統を背負って戦うプレッシャーを跳ね除けて、決勝は2人で3点取ってきたわけですから、讃えるしかない。『本当にお前らはスゴい』と。スゴいというよりも感服です。私は恵まれていますね」
主将として準決勝では最後の最後に踏ん張り、決勝では優勝を決める勝利をあげた鈴木。実は鈴木が愛工大名電での団体戦で2勝をあげたのは中学、高校通してこの決勝が初めてだった。中学1年から団体戦で起用し続けてもらった経験が今日の試合につながったと口にした。
「中学1年の時に全中のダブルスで初めて名電で団体戦に出てから、ずっと団体戦に出させてもらって、プレッシャーも大きい中で6年間戦ってきた。全中でも中学選抜でも優勝できなかったこともあったし、優勝も負けも経験して本当に良い経験をさせてもらいました。プレッシャーに負けないメンタルを持つことができたし、それが準決勝の試合につながったと思います。
名電という伝統あるチームで主将をやらせてもらっているので、連覇を途絶えさせることはできない。試合でも普段の行動でも主将としてチームを引っ張る意識というのは常に持ってやってきました」
鈴木といえば、今年3月の高校選抜に気合の坊主頭で出場。「夏までこれ(坊主)で行こうと決めたので、やり切ろうと思って」と貫いてきた坊主もインターハイが最後。優勝後には「これからは伸ばすので、久しぶりに髪の毛を触れます」と笑いを誘った。
プレーだけでなく、ベンチでのアドバイスでも今枝監督が高く評価した吉山。愛工大名電には中学の途中から転校する形となったが、名門で過ごす中でエースとしてのプライド、そしてチームへの献身が芽生えた。
「(成長したのは)メンタルです。自分はメンタルが本当に弱かったんですけど、名電での寮生活を通して見えていなかったものが見えるようになりました。それが心の成長につながって、試合の厳しい場面でも乗り越えられるようになったと思います。エースの自分が負けたらチームも負ける。なので1球1球責任を持って試合をしてきました。団体戦は1人では勝てないので、ベンチでもぼくが一言伝えることで、プレーする選手が自信を持って戦えたらと思ってアドバイスしていました」
部旗にも刻まれた「伝統の力」。そのDNAは脈々と受け継がれ、濃度を増していく。逆境さえも成長の糧に王座を守った名門は、今年もやっぱり強かった。
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